医のこころ
一般社団法人 日本医療学会

北原国際病院(東京都八王子市)カンボジアに日本医療の未来を創造する

「日本の医療を輸出産業に育てる」ことを目的に開設された北原国際病院(東京都八王子市)。グループ会社の株式会社Kitahara Medial Strategies International(以下KMSI)、日揮株式会社、株式会社産業革新機構の3社で合弁会社を作り、昨年末カンボジアに救命センターをオープンした。同病院の北原茂実理事長は、「目的は日本の医療を丸ごと輸出することではなくて医療におけるカンボジアの自立であり、それを支援するためのシステムを開発すことこそが日本の医療の輸出産業化につながる」と力説する。

北原国際病院の外観

目指すは地産地消型医療の構築

医療法人社団KNI・北原国際病院の
北原茂美理事長

2016年9月20日、カンボジアの首都プノンペン----。この日、「サンライズジャパンホスピタル」の開院式典が開かれた。参列者は2000人にのぼり、挨拶に立ったフン・セン首相は同国に日本水準の医療が提供されることを歓迎しつつ、さらに「外国投資家や旅行者の安心、ひいてはカンボジアへの投資増加につながる」と大きな期待を表明。Facebookにも「一番行きたい病院」と書き込み、現地の4大新聞やテレビにもニュースとして取り上げられて大きな注目を集めた。同病院の設立は日本政府の「医療の輸出」戦略にも沿うものであり、安倍晋三首相も開院式典に際しては「日本式医療サービスがカンボジア国民の健康に寄与し、生活を豊かにすることを確信する」とのメッセージを寄せた。

昨年10月に外来、11月には救急診療も開始したが、「開院2カ月で予想の2倍を超える患者が集まってきた」と北原理事長は語る。脳外科の患者、救急の他にも、消化器、一般外科内科、リハビリテーション科なども幅広く扱う。

「今は診療も含めて日本人スタッフ中心に運営しているが、いずれは全てカンボジア人スタッフに任せていきたい。カンボジア人が自分達の手で自立的かつ持続的に医療を回していけるように、医療技術だけでなく教育システム、レストランなどの付帯サービスやメンテナンス、IT、マネジメントに至るまで、あらゆるノウハウを伝授している」と北原理事長は語る。

なぜカンボジアを選んだのか

北原国際病院の広報責任者・
リハビリテーション科理学療法士の
亀田佳一氏

サンライズジャパンホスピタルの源流は北原理事長が17歳のときに抱いた構想にある。高校生だった北原理事長は「このままでは日本も世界も行き詰まる。打開の鍵は医療をツールとした社会開発、社会改革にある」と確信したのだという。

東京大学医学部を卒業して、東京都八王子市に脳外科の専門病院を開設したのは22年前。現在市内に4つの施設を運営し、脳と心臓を中心に予防、救急医療からリハビリテーション、在宅ケアまで一貫した医療を提供しているが、基幹病院である北原国際病院は、脳卒中の治療実績で東京都内第2位を誇っていると言う。

北原国際病院は医療法人社団だが、グループ内に株式会社KMSI、NPO法人、一般社団法人を有し、海外事業や営利事業にも積極的に取り組んでいる。医療法人としての稼働病床は135床ほどだがスタッフは非常勤職員も含めれば約500人。その中からカンボジアには25名を派遣している。

北原理事長は2008年、海外展開の最初のターゲットをカンボジアに定め、9年からERIA、11年からは経済産業省の支援を受けて、医療の実態調査とクリニックの試験運用を行ってきた。

13世紀頃のカンボジアはインドシナのほとんどを支配する大国であり、医療においても地域をリードしてきた歴史がある。しかし1969年からの10年間にわたる内戦でほとんどの医療者が虐殺され、そのために経済的には復興を遂げた今日も医療は復興できないでいる。今では裕福な国民は検査や治療のために隣国タイやシンガポールの病院を受診するようになり、結果として更なる国内医療の荒廃を招く悪循環に陥っている。最近ようやく医療者の数も増えてはきたが、問題は質であり、同じ国民でさえ彼らを信頼していないことだ。

「現地の医師の少なからずが、戦時に衛生兵として活動した功績を考慮されて、免許を交付された人々。国民はどの医師を信じていいのかわからない」と北原国際病院広報責任者で自身も3年間、カンボジアで調査に携わった亀田佳一氏(理学療法士)は語る。信頼に足る医療がないカンボジアでは、余裕のある国民は医療を受けるために国境を超える。問題は貧しい人々と国境を超える暇がない救急患者をどう救うかだ。

北原理事長は語る。「カンボジアに日本のある意味過剰な医療を輸出しても意味がない。彼らのニーズに見合った必要かつ十分な医療を、しかも安価に提供することが大切だ」 

入念な現地調査が成功の鍵

進出成功の鍵は徹底した現地調査にあった。北原理事長自らが1年間にわたってカンボジアに滞在するという熱の入れようであった。「最初にカンボジアを訪れた時は宿泊予約もせず、右も左もわからない白紙の状態だった」というから文字通りゼロからのスタートだ。「カンボジアにどのように食い込めばいいのか模索し続けて、最終的には大臣とも友人としてお酒を酌み交わせるようになった。救急車に同乗し、救急医療の実態を肌身で感じた」

がんの治療なら海外に渡る余裕もあるが、交通外傷や脳卒中ではそうはいかない。豊かになり始めたこの国が医療面で自立するために今本当に必要としているのは救命センターだ、ということを痛感したという。

そこで自ら救命センターを設立することを決意し、資本参加してくれる国内企業を募集、名乗りをあげたのが、海外でのプラント建設で実績のある日揮株式会社と株式会社産業革新機構だった。  

多くの日本人医療者を派遣し、しかも在留邦人ではなくて現地の患者をタ―ゲットにした救命センター、本当に経営は持つのだろうか、当然皆疑問に思うはずだ。このセンター成功の鍵は北原理事長が提唱する“地産地消の医療”の実現にある。

「カンボジア人医療者を育て、彼らが同朋を助け、かつきちんと報酬を得られる体制を作る。そうすればカンボジアが救われ、サンライズが潤うのみならず同時に日本の医療も高品質低価格な輸出産業に成長できる」(北原理事長)。

他方、未成熟な保険制度を補うためサンライズジャパンホスピタルは会員制も採用している。ゴールド、シルバー、ブロンズの3段階からなる年会費制でブロンズは貧困層でも届く金額に設定している。今後、会員が増えれば、その資金を使い、安い会費で医療保険類似の制度を導入できる可能性がある。

途上国での経験が制度疲労をおこした日本の医療を救う

北原理事長の狙いは、「海外に日本の医療拠点を設置し、医療市場を獲得する」という経済産業省の狙いを越えたところにある。北原理事長は「日本の医療制度は少子高齢化の進む社会の現状に合わなくなっている」と指摘する。「医療技術の進歩と高齢化で医療費は膨張し続け、経済の停滞と相まって皆保険制度を支える現役世代は疲弊してきている。生活の苦しさから保険料を滞納した人は被保険者資格を剥奪され始めており、堅持が叫ばれる国民皆保険は実は既に形骸化している。今もし医療途上国でも先進国同様のパフォーマンスが期待できる、重厚長大型ではない高品質低価格な医療を新たに開発することが出来れば、リバースイノベーションの形で日本の医療を救うことが期待できる。」

既に同理事長の目はベトナム、ラオスに向いている。日本並びに両国政府を交えての交渉はほぼ終了しており、年内にも小規模な施設からオープンする計画だという。

≪参考文献≫
◆北原茂美著、『「病院」がトヨタを超える日 医療は日本を救う輸出産業になる!』、講談社プラスアルファ新書
◆北原茂美著、『あなたの仕事は「誰を」幸せにするか?』、ダイヤモンド社

北原国際病院

HP  http://www.kitaharahosp.com/honnin/
住所 〒192-0045 東京都八王子市大和田町1-7-23
電話 042-645-1110(代)
病床数 110床(ICU:8床)
関連施設 北原RDクリニック(脳ドック)、北原リハビリテーション病院(回復期リハビリテーション病院、メンタルケア病棟)

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