医のこころ
一般社団法人 日本医療学会

第11回「コロナ世界大戦・敗戦日本」

「コロナ世界大戦・敗戦日本」

2019年12月初め、中国の武漢で勃発した新型コロナウィルス(COVID-19)の「戦火」は、これまでに無いスピードで全世界に飛び火。世界各国は否応なしに「見えない敵」と戦う「コロナ世界大戦」への参戦を余儀なくされた。大戦はまだ終息しないが、どうやら「日本敗戦」は決定的になってきた。

と言うと「非国民」呼ばわりされそうだが、僕は日本が先の大戦に敗れる1年前、1944年8月生まれ。父親は召集されたが、健康を害し、直ぐに除隊、母が40歳過ぎて産まれた「非国民の恥じかきっ子」。出生に免じて我が独断をお許し頂きたい。

未曾有のコロナ大戦の「敗因」を探り、大戦が浮き彫りにした「気がつけば後進国」の日本の実態を見つめ直したい。中国大陸で蜂起したコロナ大戦の敵「新型コロナ・ウィルス軍」と島国「日本軍」の緒戦は当然、「水際戦」となる。島国の利点を生かすには、いち早く強固な防衛線を張らねばならなかった。

しかし、首相の安倍大将が「中国からの入国禁止」を命令したのは、2020年の3月5日。台湾より2ヶ月、米国より1ヶ月近く遅かった。それは何故か。 4月にも「中国の習近平主席の来日計画」があり、中国との往来をストップ出来なかった。更に東京五輪が夏に予定されており、「日本のコロナ感染は軽微で、東京は平穏」を装う必要があった。

安倍命令の3週前の2020年2月13、日本軍参謀の尾身 新型コロナウィルス感染症対策分科会会長は、日本記者クラブで会見。「1月初めに中国などから、すでに感染者が日本にかなり入っている」と述べ、「水際対策は手遅れ」との判断を示していた。

日本は先の大戦の敗戦から立ち直り、この半世紀、感染症にさしたる対策を取って来なかった。にも関わらず、日本政府・関係官僚そして尾身氏も「インフルエンザなどの感染症の患者、死者は諸外国に比べ極めて少ない」と自画自賛。この「根拠なき成功体験」から日本政府の危機意識は低く、厳しい水際対策を打たず、コロナ軍の上陸侵入を許した。

コロナ軍が上陸したからには、次の手はPCR検査を実施、敵襲で傷ついた兵士(感染者)を早く見つけ出し、救出(隔離・治療)すべきだった。これまでのウィルス戦と違い、コロナ軍の特徴は「無症状感染者が多く、ウィルスは変異し易く感染力が強く致死率は高い」。つまり「敵は変幻自在で武器は強力」。これを抑え込むには「素早い広範な検査で感染者を発見、隔離する」のが最も有効な戦術で、すでに韓国軍などが実践済み。

ところが、検査を担当する保健所が縮小され、安倍大将が「検査拡充」の笛を吹いても、日本部隊の動きは鈍く、隔離・治療の医療施設も不十分。安倍大将はまたも得意な「ホラを吹く」結果となった。

安倍・菅の指令部は「国民の命と財産」を守ると称して約8年もの間、「安全保障法制」や軍事力強化に力を入れた。いくら北の隣国に「ならず者の若大将」がいるとは言え、日本国民の「命と財産」を年々、日々脅かしているリアルな敵は「大規模な自然災害や感染症」。日本の「コロナ敗戦」は安倍・菅指令部が「防衛力」強化の矛先を間違えた結果ではないだろうか。

ここまで来ると「コロナ戦」の終息は「ワクチン」を待つしかない。その肝心のワクチンの調達が日本は遅れ、接種率は4月末現在で世界の100位以下の低水準に止まっている。

ワクチン調達が遅れた理由は①国産ができない②国内に感染者が少なく、治験が進まない、の2つ。日本のワクチン開発力の低下はこの30年間に進行した。副反応リスクを恐れ、医薬品メーカーが開発から相次ぎ撤退した結果だ。

ただ感染症対策は「国民の命と健康を守る」国防的テーマ。本来、民間に任せず、政府が主導すべき任務。それを怠ったのは「行政の不作為」と糾弾されても仕方がない。

「感染者が少なく新薬の治験が出来ない」はもっともらしい口実。強引な憲法解釈で安保法制を変更してきた安倍・菅指令部が新薬治験などで特例断行を憚ったのは、トラブルを恐れ、「責任を取りたくない」からだ。コロナ戦で3度の緊急事態宣言を出し、作戦が後手後手に回っても、安倍、菅の両将は「失敗を認めず、謝らない」。同じ3度のロックダウンを余儀なくされたフランスのマクロン大統領は「誤り」を認め、謝罪。英国のジョンソン首相は「全ての責任は自分にある」と国民に覚悟を示した。

ワクチン調達が全て海外からの輸入に頼らざるを得ないなら、安倍大将が得意の外交力を発揮すべきだった。「地球儀俯瞰外交」とは何だったのか。記録的な数の国を訪問し、莫大な費用を使っただけでは益より害が多い「害交」ではなかったか。

世界の最後発でワクチン接種を始めたからか「公平」を名目に薄く広くの「ばら蒔き戦略」で、「やった感」「やってる感」を演出、アリバイ作りに努めている。戦略的投下をしないと、戦果は得られず、「敗戦」もやむ得ない。

それでも居酒屋の「新橋一揆」は不発。国民は暴動はもちろんデモもせず、「3密回避、マスク、手洗い」を励行、ワクチン接種の予約に長時間取り組み、ひたすら耐えている。この「怒らない国民」の「ぬるま湯」に浸かり、「世襲政治家と忖度官僚」で構成された日本軍は、「茹でガエル状態」。これでは戦争に勝てるわっきゃない。

そして気がつけば、76年ぶりの「日本敗戦」。医療崩壊、デジタル化や脱炭素の出遅れ、競争力や所得の低下、財政悪化、人口減等々。落ちる所まで落ち、落日に照らされた「焼け野原の日本」が見える。しかし、今度は自ら「日本軍を解体」、ここから日本は再起するしかない。


2021・5・11
上田克己

プロフィール

上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
2013年 同 顧問
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞

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