第2回『再考 都知事選と東京五輪』

再考 都知事選と東京五輪

戦後21回目の東京都知事選挙は、予想通り現職の小池百合子知事が圧勝し、再選された。東京五輪の延期、コロナ・パンデミックの発生という異常事態下の選挙だったが、結果は「無風」だった。「大東京」は問題噴出、課題山積だが、それらが選挙戦で浮き彫りになり、議論が深まることはなかった。

何故「無風選挙」となったのか。最大の要因はコロナの感染拡大にある。「危機下の選挙は現職・与党が有利」が定説。2017年の衆院選でも安倍自民党は北朝鮮の脅威を強調、「国難突破解散」と訴え、大勝した。麻生太郎副総理は「(大勝は)北朝鮮のお陰」と公言。小池の胸の内も「圧勝はコロナのお陰」が正直なところか。

東京でコロナ感染の収束が見えない状況は「東京五輪の招致」が原因との見方がある。今夏の東京五輪の開催予定がコロナへの対応を遅らせた。そして今後もコロナ対策は「東京五輪の開催」が至上命題となるからだ。

今さらケチをつける積りはないが、「東京五輪招致」には少なくとも五つの誤り・ウソがあった。「東京の五輪ならぬ誤輪」なのだ。どんな誤り・ウソが生じたのか。①五輪招致は2011年6月に石原慎太郎知事が都議会で表明、火を点けた。東日本大震災からわずか3ヶ月余り。その復興を挙国一致、最優先すべき時に大イベントの誘致に踏み切った②「復興五輪」の旗を掲げたが、資材高騰、人手不足を招き、復興工事の費用増大と遅れを来した③2013年9月のIOCの開催地決定総会で安倍首相は「(福島原発事故の)汚染水はブロックされ、状況はアンダーコントロール」とスピーチ④開催時期の7、8月について東京五輪招致委員会は「晴れる日が多く、温暖、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる理想的気候」とアピール⑤東京五輪は東京一極集中を加速、安倍政権の目玉政策の地方創生と矛盾。

東京五輪の開催が決定したIOC総会に臨席の栄に浴したのは石原に後継指名された猪瀬直樹知事だった。日本の選挙史上で個人最高得票の434万票を獲得した猪瀬は「ギネスもの」と得意満面。「五輪」の超デラックスカーに乗り、「暴走老人」石原を追走したら、徳田マネーの流れる溝の蓋が落ち、敢えなく「脱輪」した。以来、東京五輪はトラブル続き、遂にコロナ・パンデミックが発生、前代未聞の延期となった。

石原の東日本大震災の「天罰」発言は自戒を込めたものかも知れない。自らが種をまいた「東京五輪」開催を危うくしているコロナ禍はどう受け止めているのか。石原と豊洲移転で対決姿勢を演じた小池は皮肉にもコロナで「復権」した。もし、どんな形であれ来夏、東京五輪が開催され、「コロナに打ち勝った証」となれば、「小池は大海へ」化け、石原の言う「厚化粧の大年増」は「コロナの冠を戴く女帝」へと変身するかも。今後のコロナ・パンデミックと東京五輪の動向は東京都にとどまらず日本の行方をも左右しかねない。

2020・7・21
上田克己

プロフィール

上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞