第16回 『コロナ対策の中間総括〜「あっぱれ」は誰!「喝」は何処!』

コロナ対策の中間総括〜「あっぱれ」は誰!「喝」は何処!

新型コロナの第5波の新規感染者が急速に減少、緊急事態宣言も全国的に一斉解除された。コロナ感染者の急減は「総選挙向けの仕掛け」と勘ぐる向きもあるほどで、衆議院解散で火蓋を切った「総選挙」は、政府自民党の「コロナ対策の評価」で「どう転ぶか」注目される。「コロナ禍」の行方は予断できないが、この機会に「日本のコロナ対策」を中間総括し、何処の誰の何が「『あっぱれ』か『喝』か」を評定する。

菅義偉前首相は退任に当たって「日本のワクチン接種率は米国を超えた」と自賛した。日本のワクチン接種は 米国より数カ月遅れてスタート、今年の春先の接種率は「世界で100位」と揶揄される水準にあった。それがオックスフォード大のWebサイト(10月11日発表)のデータによると日本は米国を抜いて世界8位の64・3%へ急上昇している。

菅さんが胸を張るのも頷ける。この高い接種率が第5波の感染者急減の大きな要因、とも推測される。「さスガ」と『あっぱれ』を差し上げたいところだが、経緯を振り返って見よう。安倍・菅政権のコロナ対策の成否は「東京オリンピック・パラリンピック」が象徴している。コロナ禍で東京オリパラの1年延期が正式決定したのは昨年3月24日。

これで「東京2020」は開会まで1年4ヶ月の余裕ができた。それまでにコロナ対策を講じ「正常な大会を開催する」とのターゲットがはっきりした。この時点で最も有効で優先すべき対策は「ワクチン接種」と政府、東京都など大会関係者は認識していたはず。

ところがワクチンの調達が遅れ、接種も全国一律・公平が基本の政府方針により薄く(少量)広くバラ撒かれた。オリパラ開催地の東京首都圏のウィルス退治、感染防止効果に限界が生じた。

結局、東京オリパラは「無観客開催」となった。異常な「隔離状況での競技を観客はテレビ観戦する」では「安心、安全な大会」と誇れない。「人類がコロナに打ち勝った証として完全な形で開催する」との延期決定時の安倍首相の公言は「虚言」となった。

度重なるコロナ対策の失敗で、急落した内閣支持率を「オリパラ開催にスガって立て直そう」とした菅首相の思惑ははずれた。オリパラが閉会しても菅内閣の支持率は戻らず、総選挙を前に菅首相は仲間内の自民党議員からも「スガれない」と見限られ、辞任に追い込まれた。「酒は飲まない、ゴルフもしない」菅さんが一生懸命、業務に励んだことは認めるが、「政治は結果」。安倍・菅政権のコロナ対策は『喝』と言わざるを得ない。

コロナ対策の成否のバロメーターは「感染者数」で測られがちだが、究極の指標は「死者数」だろう。政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長もコロナ感染がまだ走りだった昨年2月の記者会見で、感染症対策は「重症者と死亡者を最少限するのが最も重要」と強調した。

そこで米国ジョンズ・ホプキンス大のデータで世界を見てみよう。10月14日現在,死者数が断トツに多いのは米国で、72万人。米国の歴史上,最も多く死者が出たのは160年前の南北戦争の70万5千人、次いで100年ほど前のスペイン風邪の67万5千人で、第2次大戦の犠牲者は約40万人。コロナの死者数はそれらを上回り「米国史上最大の災禍」となり、昨年の米国人の平均寿命は1年短縮した。マスク嫌いで、非科学的なトランプ前大統領の「新型コロナ・ウィルス軽視」が招いた災い。『大喝』だ。

次いで多いのが南米のトランプと言われるボルソナーロ大統領のブラジルの60万人。人口当たりではブラジルが世界最多でボルソナーロは、もちろん『喝』。プーチン大統領のロシアの死者数は22万人だが、実際は「その5倍」との説もある。事実なら 米国を遥かに上回り、世界最多で「恐(おそ)ロシア」だ。世界で最初にワクチン「スプートニクV」を開発した、と誇ったが、ロシアの接種率は上がらない。国民が政府を信頼してないからで、その元凶のプーチンは『喝』。

これらに対して新型コロナ・パンデミックの「発生源」と見られている中国の死者数はわずか5千人足らず。この数字が真実ならば、習近平主席のコロナ対策は驚異的な成果を挙げており、『あっぱれ』。

しかし「コロナ・ウィルスの発生源の特定」と「パンデミックの原因究明」が未だ不十分。この2点の解明は「発生源国の責任」。それを果たさなければ、中国のコロナ対策は評価できない。

日本の死者数は10月14日現在で1万8千人と、欧米に比べ極めて少ない。これは誇っていい実績だが、「政府の対策が効を奏した」とは言い難い。日本固有の「ファクターXが機能したのではないか」との説が有力だ。

都道府県別に死者数を見ると東京都と大阪府が3千人台で飛び抜けて多く、肩を並べている。しかし、人口当たりでは大阪府が断トツに多く、次いで北海道、兵庫県、沖縄県と続き、東京は5番目。

大阪府の吉村洋文知事はテレビの露出度が高く、弁護士として鍛えた弁舌も冴え、そのコロナ対策を評価する向きもある。ただ肝心の「人口当たりの死者数が日本最多」では『あっぱれ』を与える訳にはいかない。全国ネットのテレビ報道番組に盟友の橋下徹さんがレギュラー出 演しているのも、バックアップになっている。橋下さんは「政治家は辞めた」と言っても、吉村知事が党首の政党「大阪維新の会」の創立者で、今も法律顧問を務める。政党の「影の党首」と言われる人物をレギュラーコメンテーターに起用するテレビ局の見識が問われる。

大阪に近い明石市の泉市長は橋下さんと司法修習が同期の弁護士出身だが、コロナ対策に「私権制限」の強化を主張する吉村知事を「有害」と痛烈に批判している。

コロナ対策の決め手のワクチン接種の現場作業は全国の市町村が担当した。自治体の規模や能力の格差が大きく、貴重なワクチンをロスするトラブルが続出、自治体間で接種率の高低も生じた。このため「6割もの自治体が接種率を公表していない」ので、自治体別のコロナ対策の優劣は付け難い。

そうした状況だが、接種率の高さ、接種の進め方などで評価が高いのは福島県の相馬市。人口3万人以上の全国の自治体で、恐らく最も早く2回目の接種率80%以上を達成した。そして感染者の発生を全て情報公開している。今年5月に設立したワクチン接種メディカルセンターの所長は渋谷健司医師(皇后雅子様の元義弟、元WHO上級顧問)が就任。地方の小都市とは思えない体制で3回目接種の準備を進めている。

立谷秀清市長は医師で、地元で有力病院を経営している。更に全国市長会の会長。こうした立場から立谷市長はワクチン接種に必要な医師や看護士などの手当てや県や政府の情報を収集する力も持つ。相馬市のワクチン接種を始めとするコロナ対策が先行した理由だろう。立谷市長のリーダーシップは『あっぱれ』だ。

もう一人、新潟県弥彦村の小林豊彦村長のワクチン接種対策をお伝えしたい。弥彦村は人口9千人足らずの小さな自治体で、村の医師は2人の開業医だけ。小林村長は日経新聞で僕の1年後輩の記者だった。元記者の勘でコロナ対策は「ワクチン接種だ」と昨年11月頃から集団接種を検討、準備を始めた。ところが看護士は村に婦長経験者がいて、そのツテなどで必要な人員を確保できるメドがついたが、医師が足りない。そこで今年3月に近隣自治体の医師会に派遣協力をお願いしたが、断られた。

困った小林村長は東京の友人へ「医師紹介」の電話攻勢をかけた。僕はそれを受けて、日本医療学会へ相談、加藤治文理事長(東京医科大学名誉教授)へ要請が届いた。加藤理事長から早速、教え子の医師を紹介頂いた。

僕は親戚筋の医師にもお願い、小林村長が声掛けした他ルートの医師の協力も得られた。接種に携わった医師は延べ人数で183人、うち県外からが130人で、7割超。県外の医師の実数は28人で、東京を中心に福岡県や山口県からも駆け付けて頂いた。

その結果、5月にスタートした弥彦村のワクチン集団接種は極めて順調に進んだ。新潟県唯一のモデル地域に指定され、2回目接種も県内では「断トツの早さ」で終わった。10月12日現在で接種率(小学6年以上)は90・4%と高い。

特筆すべきは64歳未満の接種では、弥彦村の村民だけでなく、周辺市町村の住民も対象にした。村民4千人、村外住民4千2百人の集団大規模接種を実現した。村外住民の中には隣接市の保育士、小・中学の教師約千人が含まれ、感謝されたよだ。

周辺市町村で「弥彦村へ行く」と言うと、「ワクチン接種ですか」と問われるほど、「弥彦村のワクチン集団接種」は 有名になった。保健所が村内に無く、感染者の居住地を伏せているので、弥彦村の感染者数は公表データ上、0人となっている。実際は一桁の数人の感染者が出た模様だが、死者は出ていない。「身びいき」と言わようと、小林村長へ『あっぱれ』を送りたい。

この2年間、世界最大の課題となった「新型コロナ対策」は海外では「大国」は概ね「失敗」で、その政治リーダーは『喝』。国内でも大規模都市は感染者や死者が多発して首長は『喝』だ。

もちろん人口が少なく、行政区域が狭ければ、コロナに限らず、対策効果は挙げ易い。であれば、世界のリーダーは「大国覇権主義」に走るのではなく、「小国分権主義」を目指すべきではないだろうか。日本についても「1強中央集権」より「民主的な地方分権」が望ましい。総選挙の結果に注目したい。

2021・10・20

上田克己

プロフィール

上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞