第18回 『「なんでも官邸団」=現代の政商』
「なんでも官邸団」=現代の政商
今年の漢字は「金」と決まった。1年延期の東京五輪が開催され、日本は「史上最多の金メダル」を獲得したからだ。それは結構だが、東京五輪は当初計画のほぼ倍の「金(カネ)」がかかり、国や東京都の負担は大きい。更に施設の維持、運営に、これからも多額の「カネ」が必要で、「五輪負債」は尾を引きそう。それでも、五輪で、しっかり「金(カネ)を稼いだ企業や人」もいる。コロナ禍の中の異例の五輪開催で、日本における「現代の政商」の存在と「政官財の構図」が浮き彫りになった。
東京五輪はコロナ禍で開催を1年延期したが、結局、「無観客」で行われた。このため「開催都市・東京」や「開催国・日本」への経済的恩恵は小さく、都民や国民の「税金投入を通じた負担」は増えた。「復興五輪」を謳い、「東日本大震災の被災地再建にも寄与する」との大義名分も、人手不足や建築資材高騰で、却って「復興の足を引っ張った」。 そうした状況を尻目に東京五輪で、しっかり、「金(キン)」メダルならぬ「金(カネ)」をゲットした「ヒトや企業や業界」がある。
僕の「独断と偏見とヤッカミ」で例示すると、それらは「DPGK」。Dは電通、Pはパソナ、Gはゼネコン、Kは隈研吾。
電通は今回の東京五輪はもちろん、1984年のロサンゼルス五輪のオリンピック商業化以来、日本おけるテレビ放映権などの利権を独占して来た。なぜ世界最大のスポーツイベントに一民間企業が長期に独占的な利権を保持できるのか。
いろんな要因があるが、利権を持つIOC(国際オリンピック委員会)の首脳は西欧の特権階級で、トップの任期は長期化する。そこへ食い込 めば、独占的な立場を長く維持できる。電通は今や日本で最も影響力のあるメディアのテレビへの「支配力」と「日本3大コネ会社」と言われた「人脈」を活かして内外のビッグイベントにコミットして来た。
その代表例が元専務の高橋治之の存在。彼は電通のスポーツ事業局を足場にIOCなど国際スポーツ組織に太いパイプを築いた。電通退職後も国際的なスポーツイベントの日本における「フィクサー」として活動。今回の東京五輪でも招致に活躍、「東京五輪の黒幕」とも呼ばれている。東京五輪の招致を巡ってはJOC会長の竹田恒和がフランスの司法当局から収賄容疑をかけられ辞任した。竹田と疑惑のIOC委員との仲介役は高橋と見られている。
電通はオリンピックに限らず、政府や自治体のプロジェクトを沢山受注しており、役人にとっても便利な存在。自民党など政党の広報・宣伝活動も電通が受注、「電通頼み」の政治家は多い。電通は今や日本最大の「政商」であり、「御用商人」である。
パソナは人材派遣会社、現代の「口入れ稼業」。それが東京五輪の組織委員会と「オフィシャルサポーター契約」を結び、電通と共に人材派遣を独占的に受注した。そして実際の派遣業務はグループや関連会社へ再下請けさせ、受託料を「中抜き」している実態が明らかになった。オリンピックに続き、コロナのワクチン接種でもパソナ・グループは自治体や企業から多数の「人材派遣」を受注している。
パソナは「経済学者」の竹中平蔵が取締役会長であることも問題視されている。竹中は1998年の小渕内閣で経済戦略会議の委員に就任して以来、政府の「経済ブレーン」を四半世紀近く務めている。特に2001年に小泉純一郎が経済財政政策担当大臣に抜擢、「新自由主義政策」を推進して以来、影響力を発揮して来た。IT、金融、郵政民営化の各担当大臣や総務大臣も歴任、大臣在任期間が「記録」となるほど長期に重用された。
竹中はオリックスやSBIホールディングスの社外取締役も務めている。彼の地位は関与した法案や政策の絡みで、「利益相反に当たる」と指摘する向きもある。郵政民営化で誕生した「かんぽ生命」の社外取締役にパソナ子会社の女性社長が就任しているのも「竹中の威光か」と勘ぐりたくなる。
オリックスと言えば、創業者の宮内義彦は1990年代初めから政府の審議会の長を務めた。特に規制改革関連に10年以上関与した。その間、首相は細川護煕、村山富市など自民党以外も含め8人に及ぶ。宮内ら「若手財界人」は、その間、「主が替われど」首相官邸に出入り、ほぼ一貫して政府の審議会などに関与した。金融、サービス分野で幅広く事業展開するオリックス・グループの総帥の宮内についても「利益相反ではないか」との声が上がった。
当時、経団連の副会長を務めた長老格の財界人は宮内ら「若手財界人」を「なんでも官邸団」と揶揄した 。テレビ東京の人気番組「『開運』なんでも鑑定団」をもじったのだが、「なんでも官邸団」が「日本の運を開いた」とは思えない。竹中はオリックスの取締役を引き受け、宮内の「なんでも官邸団」の流儀を受け継ぎ、令和の「御用学者」、いや「政商」と化しているのではないだろうか。
なぜ竹中も長期に渡り、何代もの首相の下で「経済ブレーン」として登用され続けて来たのか。小泉の抜擢以来20年を超える期間、3年間の民主党政権時代はあったものの、それを除くと17年間は自民党政権。それも麻生首相の1年間以外は旧福田派の流れの「清和会」の首相が続いた(菅首相は安倍継続内閣)。同じ派閥の首相の政権が続き、権力の一極集中が進み、人脈は固定化し、「政官財」のトライアングルが形成された。それが竹中を始め学者も取り込んだ「『政官財学』の癒着、利権構造と化した」のが実態ではないだろうか。
岸田文雄首相は「保守本流」の派閥と言われる「宏池会」を率いる。自民党の首相としては十数年ぶりに清和会以外からの登場。宏池会からは宮沢喜一以来20年ぶりの首相誕生。同じ自民党政権とは言え、政策転換の期待が高まった。
それを受け、岸田は小泉・竹中ラインで推進した「新自由主義経済政策からの脱却」を目指し、「新しい資本主義の実現」の看板を掛けた。「新自由主義」は市場の機能を尊ぶのはいいが、貧富の「格差拡大」を招いた。岸田は「成長と分配の好循環」で格差是正を狙う。
そして「『新しい』資本主義」と言うからは、前政権の経済財政政策とは違う、つまり「アベノミクスからの転換」を意図して いると見た。とすれば、いささか気がかりなのは、「新しい資本主義実現会議」の担当大臣に萩生田光一経産相が名を連ねている点だ。
萩生田は安倍の最側近。「新しい資本主義」の重点はハイテクとエネルギーの政策転換。それ無くして「地盤沈下した日本経済・産業の復興」は無い。「モリカケ問題」の防波堤として文科相を務めた萩生田がアベノミクスの転換を図れるか疑わしい。経産相としての彼のミッションは「原発再稼働」ではないだろうか。「既得権益打破」が課題のエネルギー政策を推進できるか、懸念される。
竹中はさすがに「新しい資本主義実現会議」から外れたものの、「デジタル田園都市構想実現会議」のメンバーとして留まった。岸田が本当に「政策転換を目指す」なら、まず前政権からの「政官財」のトライアングルを解体する人事の刷新が肝要。その点、岸田の取り組みはまだ「中途半端」と言わざるを得ない。
僕が畏敬するエコミストの中前忠は「今、必要な日本の経済政策はアベノミクスの逆張り」と提示している。つまり「アベコベミクス」が有効なのだ。岸田首相に、それを求めるのは無理かも知れない。「新しい資本主義」が看板倒れに終わらないことを祈るばかりだ。(敬称略)
2021・12・28
上田克己
プロフィール
上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞
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