第3回『「終戦」・「敗戦」・「反戦」記念日』

「終戦」・「敗戦」・「反戦」記念日

日本が有史以来の甚大な損傷、犠牲者を出した大戦が終結した8月がまた巡って来た。75回目の夏。そろそろ「75(なご=和)やかな時代」になるか、と期待して来たが、米中の新冷戦の緊迫化にコロナ・パンデミックの発生もあり、日本、そして世界も今だ「不安な時代」を抜け出せない。そんな中で安倍内閣がまた不穏な動きを始めた。「敵基地攻撃能力」の保有だ。日本は戦後、 世界に例のない「平和憲法」の下、安全保障政策は「専守防衛」に徹してきた。その方針を転換する重大決定に踏み切ろうとしている。その是非論は十分に議論しなければならないが、まず対応姿勢を問題にしたい。

日本中がコロナ対策に追われているこの時期に、自民党は安倍首相へ「敵基地攻撃能力の保有」を提言。これに対して安倍首相は「速やかに実行して行く」と意気込んで応じた。出来レースの素早い対応。イージス・アショア断念を逆手にとり、失政を政治的攻勢で覆い隠すやり口だ。 ただ提言には「敵基地攻撃」の文言はなく「相手領域内でミサイルを阻止する能力」と表現。あくまでも「専守防衛」の範囲内での「抑止力の強化」と、取り繕っている。

6年前にも安倍内閣は同じ手を使った。日本の「平和主義」の柱だった「武器輸出3原則」を撤廃、「防衛装備移転3原則」へ切り替えた。これで日本の武器輸出は「原則禁止」から特定国を除き可能となった。「武器」が「防衛装備」と名称が変わっても「定義は同じ、対象物も変わらない」という。「輸出」を「移転」としたのは外為法では輸出は貨物だけだが、役務提供も含むからが理由。「輸出」だと武器を売買する「死の商人」のイメージを与えるからではないか。

要は表現、名称を変え、批判を浴びる実態を隠す姑息な手法だ。優秀な霞ヶ関官僚の「得意技」で、「官邸政治」の安倍内閣は多用している。因みに霞ヶ関官僚の得意技は、巧みな「言い換え表現」の他「責任回避、先送り」や近年流行の「忖度」、反則技の「公文書改ざん」など多彩。更に安倍内閣の得意技は、女性活用の「くノ一の術」。強行採決も辞さないヤバい法案の担当大臣には女性を起用。か弱い、ソフトなイメージで野党の追及を交わし、国民の眼を眩ます。直近では検察庁法改正に当たった森まさこ法相。特定秘密保護法の成立も担当した。実は南スーダンPKO部隊の日報隠蔽問題で、引責辞任した稲田朋美元防衛相ら自民党の女性議員らは、自民党に先行して河野防衛相へ「敵基地攻撃能力保有」を提言している。稲田は「国防女性の会」のリーダー。安倍首相が力を入れる「女性活躍推進」とはアナクロな勇ましい女性活躍を期待しているのだろうか。

こんな「お為ごかし」の政治をいつまで続けるのか。8月15日も政府は「終戦」記念日としている。それでは、あの甚大な損傷も犠牲も忘却の彼方へ風化して行く。自虐史観と言われようと「ハイセン(敗戦)」と認識し、「ハンセイ(反省)」し、「ハンセン(反戦)」記念日とすべきではないだろうか。

2020・8・9
上田克己

プロフィール

上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞