第6回『大阪を再び偉大に!』

大阪を再び偉大に!

コロナ・パンデミックで安倍首相、トランプ大統領がドミノ倒れした。想定したシナリオだが、コロナ禍が(吉村知事の人気上昇で)有利に働くと見られていた「大阪都構想」が否決され、松井市長の政界引退に繋がるのは想定外だった。何故「大阪都構想」は否決されたのか。大阪の魅力と問題点は何か。ポスト「都構想」の大阪は何を目指すべきか、考えたい。

「大阪都構想」の狙い(大義)は①大阪府と大阪市の「府市あわせ(不幸せ)」と揶揄されて来た「二重行政」の解消②大阪市が政令市より強い権限と財政力を持つ府市一体の自治体となり、東京都と「東西2軸」を形成するーだった。

橋下徹が府知事となり、「大阪都構想」を打ち出し、「大阪維新の会」を結党したのが、10年前。橋下知事は大阪市長への鞍替えを狙って、知事と市長のダブル選挙を仕掛けた。この奇策は当たり、橋下が市長へ松井が府知事に就任、府市を大阪維新が握って以来、「二重行政の解消」は進んだ。二重行政は「府市の仲の悪さ」が少なからず起因していたからだ。

こうなると今さら「都構想を推進する必要はない」皮肉な状況が生まれた。加えて「都構想」とは名ばかり、「大阪市が『大阪都』を名乗れる訳でなく、大阪市が消えるだけ」と市民が感じ始めた。これでは「名より実をとる」商人気質の大阪市民は「都構想」に「ちゃう、ちゃう」と2度の「NO」を出した。

「都」と名乗らずとも大阪市および関西都市圏には東京都および首都圏とは異なる魅力がある。
関西都市圏を形成する大阪、京都、神戸、奈良は各々の歴史、文化、景観を誇り、多様だ。東京の拡大延長の首都圏と違う。関西の理想のライフスタイルは「神戸(阪神間)に住み、大阪で働き、夜は京都で遊び、休日は奈良を散策する」。

大阪市は90年ほど前の大正末期から昭和初期に「大(グレーター)大阪」と呼ばれ、人口や生産力で東京を凌ぐ日本一の大都市だった。それが今や経済力は東京の三分の一に低下、「生活保護世帯数や犯罪発生件数は日本一」とイメージが悪い。

ただ誤解を恐れず言えば「大阪に貧乏人が多い」のは「住みやすい」からだ。大阪の特徴は「吉本、たこ焼、タイガース」。まず「粉もの」に代表される食べ物が「安くて美味しい」。交通手段も自転車分担率が日本の大都市で一番高い。主要・必要な場所には自転車で行けるコンパクト・シティ。大坂人は「日本のラテン」と言われる陽気で、気ままな気質で、人目を気にせず暮らせる。

世界一風格があり、景観に優れた都市はパリ。大阪にはパリに負けない一味違ったレガシィがある。
都心を流れる大川とそれが分岐、中之島を挟む土佐堀川・堂島川の景観はセーヌ川とシテ島に劣らず、「日本一のメインストリート」の御堂筋はシャンゼリゼに匹敵、シンボルタワーのあべのハルカスの高さはエッフェル塔と肩を並べる。

道頓堀から千日前の「食い倒れとお笑い」のミナミ、更に通天閣の新世界からジャンジャン横丁、飛田新地へ続く「ディープ大阪」は、猥雑な人間臭い街で、モンマルトルと景観は対極ながら相通じる文化・情緒がある。加えて大阪の中心には皇居を凌ぐ城郭美を誇る大阪城が存在する。インバウンドがこれらの魅力を再発見、殺到したのに不思議はない。

ところが大阪城の南辺にはJRの広大な操車場があるなど皇居に比べ周辺の活用・開発の遅れ、見劣りは甚だしい。ただそこが大坂のポテンシャリティとも言える。

2025年、大阪で、55年ぶりに2度目の万国博覧会が開かれる。「夢よ再び」「二匹目のドジョウ」を狙って、あの盛況を再現したい思いだろう。それが「大阪復権」に繋がるには、万博を一過性に終わらせず、そのレガシィを生かし、コンベンション・シティを目指すべきだ。そうすると「IR実現のカジノ誘致」も活きる。文楽、宝塚歌劇、京都花街など関西独自なエンタメ文化で、「和風ラスベガス」を演出すれば、改めてインバウンドも呼び込める。

大阪を中心にした関西が嘗ての繁栄を取り戻せば、「都構想」が狙った「東西2軸」が実現、日本の均衡ある発展に寄与する。それは「東京一極集中」の抑止に繋がる。想定される首都直下地震の最大の防災策は、東京への人口の集中・集積を止め、減らすことだ。東京一極集中は子育て世代を東京に吸引、その出生率低下が少子高齢化・人口減を促進している。東京一極集中にストップをかけるのは日本の最も重要な構造問題の解決策でもある。

それには大阪へ「住友も武田も日生も吉本も回帰」、文化庁だけでなく政府機関も関西へシフトしたらいい。東日本大震災がそのチャンスだったが、原発依存度の高い関西電力は原発事故を起こした東京電力と変わらぬ供給力不安に陥る始末で、関西の優位性をアピールできなかった。コロナ禍で、リモート・ワークがニュー・ノーマル化しようとしている。

今こそ東京から大阪・関西への企業の回帰、公共機関の関西シフトは再びチャンスを迎えた。トランプもじりはしたくないが、大阪はグレータ大阪のレガシィを生かし、ポテンシャリティを発掘、「MOGA(Make Osaka Great Again=大阪を再び偉大に)」を掲げ、挑戦して欲しい。このキャッチフレーズは大阪・関西のためだけでなく、東京そして日本のためにもなる「めっちゃええ目標」なのだ。(敬称略)

2020・11・20
上田克己

プロフィール

上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞